現代のWebサイト構築において、WordPressはその柔軟性と使いやすさから広く採用されています。トラフィックの増大や安定稼働へのニーズが高まるにつれて、そのホスティング先として堅牢でスケーラブルなクラウドサービスの選択が不可欠となっています。本記事では、主要な4つのクラウドプロバイダー、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud (GC)、Oracle Cloud (OC) に焦点を当て、WordPressを公開するための具体的なリソース構成例と、それぞれのクラウドでかかる費用に関する考え方を詳しく解説します。
WordPress クラウドホスティング
はじめに:WordPressホスティングとクラウドサービスの進化
WordPressは、ブログからEコマース、企業サイトまであらゆる規模のWebサイトを構築できる強力なCMSです。かつてはレンタルサーバーでの運用が主流でしたが、高トラフィックへの対応、セキュリティ強化、そして柔軟な拡張性を求める声に応え、AWS、Azure、GC、OCといったパブリッククラウドサービス上での運用が一般的になりました。
各クラウドサービスは、WordPressを動かすための仮想サーバー(VM)、データベース、ストレージ、ネットワークといった基盤を提供し、さらにWordPressに特化したマネージドサービスや、コンテナ技術を活用した高度なソリューションも用意しています。あなたのWordPressサイトの要件に最適なクラウドと構成を見つけるための参考にしてください。

※ 画像は全てミニマルデザインにこだわった嘘のイメージです。正確な構成図ではありませんのでご注意ください。
AWS (Amazon Web Services) でのWordPress構成例
AWSは、世界で最も広く利用されているクラウドプラットフォームであり、WordPressホスティングのための多様なサービスを提供しています。
Amazon Lightsail を利用した手軽なWordPressホスティング
特徴: WordPressがプリインストールされた仮想プライベートサーバー(VPS)を提供し、直感的なインターフェースで簡単にWordPressサイトを立ち上げられます。低コストでシンプルなブログや小規模サイト向けに最適です。
主要リソース:
- Amazon Lightsailインスタンス:
WordPressとLAMP/LEMPスタックが一体となった仮想サーバー。 - Lightsailデータベース (オプション):
データベースを分離し、より安定した運用が可能です。 - CDN (Content Delivery Network):
画像などの静的コンテンツ配信を高速化し、サーバー負荷を軽減します。
Amazon EC2 + Amazon RDS を利用した一般的な構成
特徴: WordPressの要件に合わせて、EC2インスタンス(仮想サーバー)とRDS(マネージドデータベース)を個別に選択し、柔軟に構成できます。中規模から大規模サイトに適しています。
主要リソース:
- Amazon EC2:
WordPress本体とWebサーバー(Apache/Nginx、PHP)をホストする仮想サーバー。インスタンスタイ
プやサイズを選択します。 - Amazon RDS for MySQL:
WordPressのデータベースとして利用するマネージドデータベースサービス。高可用性構成(Multi-AZ)も選択可能です。 - Amazon S3 (Simple Storage Service):
WordPressのメディアファイルなどの静的コンテンツを保存し、EC2の負荷を軽減します。 - Amazon CloudFront:
S3と連携し、静的コンテンツを高速に配信するCDN。 - Amazon Route 53:
ドメイン名サービス。 - Amazon VPC (Virtual Private Cloud):
各リソース間のプライベートネットワークを構築します。
※ 画像は全てミニマルデザインにこだわった嘘のイメージです。正確な構成図ではありませんのでご注意ください。
Azure (Microsoft Azure) でのWordPress構成例
Microsoft Azureは、Microsoft製品との親和性が高く、豊富なサービスラインナップでWordPressホスティングをサポートします。
Azure App Service を利用したマネージドWordPressホスティング
特徴: Azure App Serviceは、Webアプリケーションのデプロイとスケーリングを簡単に行えるPaaS (Platform as a Service) です。WordPressをWindowsまたはLinux環境でホストでき、自動スケーリングやデプロイメントスロットなどの機能が利用できます。
主要リソース:
- Azure App Service:
WordPressアプリケーションを実行するプラットフォーム。プラン(VMスペック、機能)を選択します。 - Azure Database for MySQL:
WordPressのデータベースとして利用するマネージドMySQLサービス。 - Azure Storage (Blob Storage):
メディアファイルなどの静的コンテンツを保存し、App Serviceの負荷を軽減します。 - Azure CDN:
静的コンテンツを高速に配信するCDN。
Azure Virtual Machines (VM) + Azure Database for MySQL を利用した一般的な構成
特徴: 仮想マシン上にWordPress環境を構築し、高い自由度とカスタマイズ性を確保します。中規模から大規模サイトに適しています。
主要リソース:
- Azure Virtual Machines:
WordPress本体とWebサーバー(Apache/Nginx、PHP)をホストする仮想サーバー。VMのサイズやOSを選択します。 - Azure Database for MySQL:
WordPressのデータベースとして利用するマネージドMySQLサービス。 - Azure Storage (Managed Disks):
VMの永続ディスクとして利用します。 - Azure Storage (Blob Storage): 静的コンテンツの保存に利用します。
- Azure CDN:
静的コンテンツの高速配信。 - Azure DNS:
ドメイン名サービス。 - Azure Virtual Network (VNet):
各リソース間のプライベートネットワークを構築します。
※ 画像は全てミニマルデザインにこだわった嘘のイメージです。正確な構成図ではありませんのでご注意ください。
Google Cloud (GC) でのWordPress構成例
Google Cloud (GCP) は、Googleのグローバルインフラを基盤とし、スケーラブルなWordPressホスティングを提供します。
Compute Engine + Cloud SQL を利用した一般的な構成
特徴: 仮想マシン上でWordPressを自由に構築でき、高いカスタマイズ性を持つ一般的な構成です。
主要リソース:
- Compute Engine:
WordPress本体とWebサーバー(Apache/Nginx、PHP)をホストする仮想マシンインスタンス。マシンタイプを選択します。 - Cloud SQL for MySQL:
WordPressのデータベースとして利用するマネージドサービス。高可用性構成も可能です。 - Persistent Disk:
Compute Engineインスタンスの永続ディスクとして、WordPressのファイルやデータベース(Cloud SQLを使用しない場合)を保存します。 - Cloud Storage:
メディアファイルなどの静的コンテンツを保存し、Webサーバーの負荷を軽減します。 - Cloud CDN:
静的コンテンツを高速に配信するCDN。 - Cloud DNS:
ドメイン名解決を行います。 - VPC (Virtual Private Cloud):
各リソース間のネットワークを構成します。
Cloud Run (サーバーレス) を利用した高効率な構成
特徴: コンテナベースでWordPressを稼働させるサーバーレス構成で、トラフィックがないときの課金を最小限に抑え、必要なときに自動でスケールします。
主要リソース:
- Cloud Run:
WordPressアプリケーションをコンテナイメージとしてデプロイし、リクエストに応じて自動的にスケールします。 - Cloud SQL for MySQL:
データベースはCloud SQLを利用します。Cloud Runはステートレスなため、永続データは外部データベースに保存します。 - Cloud Storage:
WordPressのアップロードファイルなどの永続データを保存するために利用します。Cloud Storage FUSEなどを用いてCloud Runからアクセスします。
※ 画像は全てミニマルデザインにこだわった嘘のイメージです。正確な構成図ではありませんのでご注意ください。
Oracle Cloud (OC) でのWordPress構成例
Oracle Cloud Infrastructure (OCI) は、高いパフォーマンスと堅牢なセキュリティを特徴とし、特にデータベースとの親和性が高いクラウドサービスです。無料枠 (Always Free) を利用して手軽に始めることもできます。
Compute Instance + MySQL Database Service (MDS) を利用した一般的な構成
特徴: 仮想マシン上にWordPress環境を構築し、OracleのマネージドMySQLサービスを利用することで、運用管理の負担を軽減します。無料枠を活用した小規模サイトにも適しています
主要リソース:
- Compute Instance:
WordPress本体とWebサーバー(Apache/Nginx、PHP)をホストする仮想マシン。Always Free枠のインスタンス(例: Ampere A1 Compute)も選択可能です。 - MySQL Database Service (MDS):
WordPressのデータベースとして利用するマネージドMySQLサービス。高可用性や読み取りレプリカの設定も可能です。 - Block Volumes:
Compute Instanceの永続ストレージとして利用します。 - Object Storage:
メディアファイルなどの静的コンテンツを保存し、Webサーバーの負荷を軽減します。 - VCN (Virtual Cloud Network):
インスタンスやデータベース間のプライベートネットワークを構築します。 - DNS:
ドメイン名解決を行います。
Oracle Container Engine for Kubernetes (OKE) を利用したスケーラブルな構成
特徴: コンテナオーケストレーションサービスであるOKEを利用し、高可用性とスケーラビリティが求められる大規模なWordPressサイトに適しています。
主要リソース:
- OKE:
WordPressをDockerコンテナとしてデプロイし、Kubernetesクラスタ上で稼働させます。複数のPodをデプロイし、負荷分散を実現します。 - MySQL Database Service (MDS):
データベースとして利用します。 - File Storage Service (FSS):
WordPressの永続データ(アップロードファイルなど)を保存するために利用します。NFSベースのファイルストレージです。 - Load Balancer:
外部からのトラフィックをOKEクラスタ内のWordPressコンテナに分散します。 - VCN:
各リソース間のネットワークを構成します。
※ 画像は全てミニマルデザインにこだわった嘘のイメージです。正確な構成図ではありませんのでご注意ください。
クラウド費用概算の内訳について(比較表)
WordPressサイトをクラウドで運用する際の費用は、利用するサービスの種類、リソースのサイズ、稼働時間、データ転送量によって大きく変動します。具体的な金額を提示することは非常に困難であり、変動する要素が多いため、常に概算となります。
以下に、各クラウドサービスにおけるWordPressホスティングの費用に関する主要な課金要素と考慮点をまとめた表を示します。
費用要素 | AWS (Amazon Web Services) | Azure (Microsoft Azure) | Google Cloud (GC) | Oracle Cloud (OC) |
---|---|---|---|---|
基本モデル | 従量課金 月額固定 (Lightsail) | 従量課金 月額固定 (App Service Plan) | 従量課金 | 従量課金 |
無料枠/トライアル | 12ヶ月間の無料利用枠 Always Free枠あり | 12ヶ月間の無料アカウント Always Freeサービスあり | 90日間の無料トライアル ($300 クレジット)、 Always Free枠あり | Always Free枠 (永続無料リソース)あり |
コンピューティング | EC2インスタンス Lightsailインスタンス EKSノードの利用時間 サイズ | VMインスタンス App Serviceプラン AKSノードの利用時間 サイズ | Compute Engineインスタンス Cloud Runリソース GKEノードの利用時間 サイズ | Compute Instance OKEノードの利用時間 サイズ |
データベース | Relational Database Service インスタンスの稼働時間 サイズ ストレージ I/O | Azure Database for MySQL インスタンスの稼働時間 サイズ ストレージ I/O | Cloud SQL インスタンスの稼働時間 サイズ ストレージ I/O | MySQL Database Service 稼働時間 サイズ ストレージ I/O |
ストレージ | S3ストレージ容量 リクエスト数 データ転送量 EBS容量 I/O | Blob Storage容量 リクエスト数 データ転送量 Managed Disks容量 I/O | Cloud Storage容量 オペレーション数 データ転送量 Persistent Disk容量 I/O | Object Storage容量 リクエスト数 データ転送量 Block Volumes容量 I/O File Storage Service容量 |
データ転送 | アウトバウンド転送量 (インターネットへ) | アウトバウンド転送量 (インターネットへ) | アウトバウンド転送量 (インターネットへ) | アウトバウンド転送量 (インターネットへ) |
ロードバランサー | ELB (ALB/NLB) の利用時間 データ処理量 | Load Balancerの利用時間 処理量 | Cloud Load Balancingの利用時間、処理量 | Load Balancerの利用時間 処理量 |
CDN | CloudFrontのデータ転送量 リクエスト数 | Azure CDNのデータ転送量 リクエスト数 | Cloud CDNのデータ転送量 リクエスト数 | (別途設定が必要な場合あり) |
割引オプション | リザーブドインスタンス Savings Plans | リザーブドインスタンス Savings Plan | コミットメント利用割引 (CUD) | ユニバーサルクレジット コミットメント割引など |
費用予測 | Lightsailは予測しやすい。 その他は従量課金で変動 | App Serviceは予測しやすい。 その他は従量課金で変動 | Cloud Runは予測しやすい。 その他は従量課金で変動 | Always Free枠は予測しやすい。その他は従量課金で変動 |
補足:
- 上記は主要な課金要素であり、実際には監視サービス、ログ、IPアドレス、サポート費用など、他にも様々な費用が発生する可能性があります。
- 各クラウドの料金はリージョンによっても異なる場合があります。
- より正確な費用を把握するためには、各クラウドプロバイダーが提供している料金計算ツールを使用し、具体的な利用シナリオに基づいて見積もりを行うことを強く推奨します。
クラウド選定のポイントとまとめ
AWS, Azure, Google Cloud, Oracle Cloud はそれぞれ、WordPressサイトを堅牢かつ柔軟にホスティングするための優れたサービスを提供しています。シンプルな構成から、高可用性やスケーラビリティを追求した大規模な構成まで、サイトのニーズに合わせて最適なクラウドとサービスを選択することが可能です。
ご自身のWordPressサイトの特性を深く理解し、各クラウドサービスの強みや提供されるマネージドサービス、そして費用体系を比較検討することで、長期的に安定し、成長するWebサイト基盤を構築することができるでしょう。
お問い合わせ・ご相談窓口
ITインフラ、Web活用、セキュリティのことでお悩みなら、ぜひご相談ください。貴社の課題に合わせ、最適な解決策をご提案します。
コメントを残す コメントをキャンセル