サーバーレスとコンテナ
モダンアプリケーション開発の選択肢
はじめに:クラウド時代のアプリケーション開発
皆様、こんにちは。JUICYと申します。
近年、IT業界ではクラウドの活用が当たり前となり、アプリケーション開発の方法も大きく変化しています。特に、サーバーレスとコンテナという二つの技術は、その中心的な役割を担っています。
これは例えるならば、遠洋航海の際に、大型の帆船を自前で建造し運用するのか、それとも整備された港に停泊している、最新鋭の小型船を必要な時だけ借りて使うのか、といった違いに似ているかもしれません。
どちらも一長一短があり、プロジェクトの目的や規模によって最適な選択は異なります。この記事では、それぞれの特徴を丁寧に解説し、皆様がご自身のプロジェクトにとって最適な選択ができるよう、お手伝いできればと考えております。
クラウドが提供する「マネージドサービス」とは?
AWS、Azure、Google Cloudといったクラウドプロバイダーが提供する「マネージドサービス」とは、サーバーの管理や運用といった手間を肩代わりしてくれるサービスの総称です。これにより、開発者は本来の業務であるアプリケーション開発に集中できます。
たとえば、サーバーレスコンピューティングは、まさにこのマネージドサービスの一つです。開発者はコードを記述するだけでよく、インフラの管理はクラウドプロバイダーに任せることができます。Google CloudではCloud FunctionsやCloud Runが、AWSではAWS Lambdaが代表的です。
コンテナオーケストレーションとは?
コンテナオーケストレーションは、複数のコンテナを効率よく管理し、自動でスケーリングや復旧を行う仕組みです。Kubernetesが代表的で、クラウド上ではGKE、EKS、AKSといったマネージドサービスが活用されています。
これに対してサーバーレスは、特定のイベント(ウェブサイトへのアクセス、データベースの更新など)をトリガーとして、コードを実行するのに適しています。実行された時間と回数に対してのみ料金が発生するため、コスト効率が非常に高いのが魅力です。
サーバーレスとコンテナ:それぞれの具体的な利用シーン
サーバーレス:必要なときにだけ動く魔法
サーバーレスは、特定のイベントをトリガーとしてコードを実行するのに適しています。実行された時間と回数に対してのみ料金が発生するため、コスト効率が非常に高いのが魅力です。
利用例
- ウェブアプリケーションのバックエンド: APIリクエストに応じて特定の関数を実行する。
- データの自動処理: ファイルがストレージにアップロードされたら、自動で画像のリサイズやデータの解析を行う。
- 定期的なタスク: 毎日決まった時間にレポートを生成するバッチ処理。
コンテナ:どこでも動く万能な箱
コンテナは、アプリケーションとその実行環境をひとつのパッケージにまとめたものです。これにより、開発環境、テスト環境、本番環境のどこでも、同じように動作することが保証されます。
利用例
- マイクロサービスアーキテクチャ: 複雑なアプリケーションを小さな独立したサービスに分割し、それぞれをコンテナで管理する。
- 大規模ウェブサービス: 負荷に応じてコンテナを自動的に増減させることで、安定したサービス提供を実現する。
- 機械学習モデルのデプロイ: モデルとその実行に必要なライブラリをコンテナにまとめて、本番環境に簡単にデプロイする。
クラウドにおけるサーバーレスとコンテナの比較
主要なクラウドプロバイダーであるGoogle Cloud、AWS、Azureは、それぞれサーバーレスとコンテナの両方を提供しています。
サービス名 | サーバーレス機能 | コンテナオーケストレーション |
Google Cloud | Cloud Functions, Cloud Run | Google Kubernetes Engine (GKE) |
AWS | AWS Lambda, AWS Fargate | Amazon Elastic Kubernetes Service (EKS) |
Azure | Azure Functions, Azure Container Apps | Azure Kubernetes Service (AKS) |
Google CloudのCloud Runは、コンテナをサーバーレス環境で実行できるユニークなサービスです。これはサーバーレスの手軽さとコンテナの柔軟性を両立させるもので、両者の良いところ取りと言えるでしょう。
サーバーレスとコンテナ:それぞれの魅力と応用
サーバーレスの最大の魅力は、その手軽さとコスト効率です。イベント駆動型のシンプルな処理であれば、コードを書いてデプロイするだけで済みます。
一方で、コンテナは柔軟性とポータビリティ(持ち運びやすさ)に優れています。Kubernetesを使用すれば、アプリケーションをより細かく制御できるため、複雑な要件や大規模なサービスに適しています。
デメリットを挙げるなら、サーバーレスは実行時間の制約があったり、コンテナは管理が複雑になったりすることがあります。しかし、これもクラウドプロバイダーが提供するマネージドサービスを利用すれば、ある程度解消できます。
上級者向け:より高度な設計と運用の視点
サーバーレスとコンテナのハイブリッド戦略
上級者の皆様は、単一の技術に固執するのではなく、それぞれの利点を最大限に活かすハイブリッド戦略を検討されることでしょう。例えば、データ処理やバッチ処理など、特定のイベントに応じて短時間で完了するタスクには、サーバーレス(Cloud Functionsなど)を利用します。一方、常時稼働が必要なAPIサーバーやマイクロサービスには、コンテナ(GKE、EKSなど)を適用するといった構成です。
このように、ワークロードごとに最適なサービスを選択することで、コスト削減と運用効率の最大化を図ることができます。また、サービス間の連携には、Pub/SubやSQSといったメッセージングサービスを活用するのが一般的です。
Kubernetesの深い世界:アーキテクチャの最適化
コンテナオーケストレーションの専門家である皆様にとって、Kubernetesは単なるデプロイツールではありません。それは、アプリケーションのライフサイクル全体を管理するための強力なプラットフォームです。
Kubernetesの運用において考慮すべきは、単一のクラスタ構成だけでなく、マルチクラスタ、マルチリージョンといった大規模なアーキテクチャ設計です。これにより、高可用性の実現や、災害対策、リージョン間のレイテンシ最適化が可能になります。
また、IstioやLinkerdといったサービスメッシュ技術を導入することで、マイクロサービス間の通信をより細かく制御し、セキュリティや可観測性を向上させることも重要です。これらの技術は、複雑な分散システムの運用を支える上で不可欠な要素となります。
セキュリティとガバナンス:クラウドネイティブなアプローチ
クラウドネイティブな環境におけるセキュリティは、従来のオンプレミスとは異なる視点が求められます。CI/CDパイプラインにセキュリティスキャンを組み込むDevSecOpsのアプローチはもはや必須です。
コンテナイメージの脆弱性スキャン、IAM(Identity and Access Management)による最小権限の原則の徹底、ネットワークポリシーによる通信制御など、多層的なセキュリティ対策が求められます。また、Kubernetesのポリシー制御には、OPA(Open Policy Agent)やKyvernoといったツールを用いることで、セキュリティとガバナンスの強化が図れます。
よくある質問(FAQ)
A. 処理が断続的な小規模アプリケーションではサーバーレスが安価です。
一方、常時稼働が前提のサービスではコンテナがコスト効率に優れます。
A. はい、学習コストは高めですが、GKEやEKSなどのマネージドサービスを使うことで、運用負荷は大幅に軽減されます。
A. はい。最近では、バッチ処理をサーバーレスで、APIサーバーをコンテナで構築するなど、ハイブリッド運用が主流になりつつあります。
まとめ:皆様のIT戦略における航海図として
サーバーレスとコンテナは、それぞれ異なる強みを持つ、現代のアプリケーション開発に欠かせない技術です。
プロジェクトの性質や規模、予算に応じて、どちらか一方を選ぶ、あるいは両者を組み合わせて利用することが重要です。この航海図が、皆様のクラウド導入や活用の一助となり、より良い未来を拓く道しるべとなれば幸いです。
本記事は『The Cloud Titans』シリーズの一部です。他のクラウド技術解説記事も併せてご覧いただくことで、貴社のクラウド戦略設計にさらに深みを加えることができます。
(これはあくまで私JUICYの個人的な感想です。皆様のプロジェクトに最適な選択をするためには、専門家への相談もご検討ください。)
シリーズ記事:
The Cloud Titans #4-5
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