クラウド料金体系比較
費用を最適化する実践ガイド
クラウドコストの航海図を手に入れよう
企業のIT担当者の皆様、こんにちは。JUICYと申します。
前回の記事ではクラウド料金体系の全体像を解説しましたが、「結局、自社ではどう選び、どう最適化すればよいのか」という問いは残されたままではないでしょうか。地図はあっても、羅針盤の使い方が分からない航海のような状態かもしれません。
今回はその問いに明確に答えるべく、主要クラウド4社の料金体系を比較し、実際に使える計算ツール、よくある落とし穴、そして実践的なコスト削減事例を詳しく解説します。無駄なコストという暗礁を避け、ビジネスという航路を安全に進めるためのお手伝いをさせていただきます。

クラウド料金の見積もりツールを使いこなす
クラウドサービスの料金を把握する上で最も重要な道具の一つが、各社が提供している料金計算ツールです。これは、使用したいサービスやリソースの量を入力するだけで、概算費用を算出できる便利な道具です。まるで、航海の前に食料や水の量を計算するのと同じように、クラウド利用の前にコストを見積もることができます。
AWS 料金計算ツール(AWS Pricing Calculator)
操作方法:
- AWS Pricing Calculatorにアクセスします。
- 「サービスを追加」をクリックし、
Amazon EC2
などのサービスを選択します。 - リージョン、インスタンスタイプ、利用時間などを入力します。
- ストレージやデータ転送量など、他のサービスも追加して計算します。
Azure 料金計算ツール(Azure 料金計算ツール)
操作方法:
- Azure 料金計算ツールにアクセスします。
- 左側のメニューから
Virtual Machines
などのサービスを選択し、計算リストに追加します。 - OS、インスタンスサイズ、時間などを設定します。
ストレージ
やネットワーク
などの項目を追加し、総コストを確認します。
Google Cloud 料金計算ツール(Google Cloud Pricing Calculator)
操作方法:
- Google Cloud Pricing Calculatorにアクセスします。
Compute Engine
やCloud Storage
などのサービスを選択します。- マシンタイプ、ディスクサイズ、利用時間などを入力します。
- 右側に表示される月額料金を確認します。
OCI 料金計算ツール(OCI Pricing Calculator)
操作方法:
- OCI Pricing Calculatorにアクセスします。
Compute
やStorage
などのサービスを選択します。- リージョン、シェイプ(インスタンスタイプ)、コア数などを設定します。
- 画面右側の
Estimate Summary
で概算を確認します。
コスト最適化の実践戦略
料金計算ツールを使いこなせるようになったら、次に進むべきはコスト最適化の具体的な戦略です。
クラウドサービス料金モデルの比較表
各社の料金モデルを比較し、自社のニーズに合った最適なサービスを見つけるための表を掲載します。
サービス | 無料枠 | 計算ツールの使いやすさ | データ転送料金 | 長期割引制度 | 備考 |
AWS | あり(12ヶ月) | ◎ | 段階課金制 | リザーブドインスタンス, Savings Plans | 国内ドキュメントが豊富 |
Azure | あり(制限あり) | ○ | 段階課金制 | RI, Azure Hybrid Benefit | Windowsライセンスとの連携強 |
Google Cloud | あり(月毎) | ◎ | 段階課金制 | 継続利用割引あり | ユーザー課金の可視性が高い |
OCI | あり(Always Free) | △ | 月10TB無料, それ以降も低価格 | ユニバーサル・クレジット | コスト効率特化型 |
※「使いやすさ」は日本語UIの有無、項目設定の自由度、見積もりの保存・共有機能の有無をもとに筆者が評価しています。 ※「長期割引制度」には、リザーブドインスタンス, Savings Plans, 継続利用割引, ユニバーサル・クレジットなどが含まれます。
事例1: オンラインゲームサービスのコスト削減
オンラインゲームサービスを提供する企業は、夜間や週末にアクセスが集中します。このピークタイムに合わせてリソースを確保すると、コストが高くなりがちです。
戦略:
- 安定稼働が求められるゲームサーバー: リザーブドインスタンスを利用して、ベースラインのコストを削減します。
- ランキング集計やログ分析: ユーザーのプレイ状況を分析するような, リアルタイム性をそれほど要求されないタスクには, スポットインスタンスを活用します。スポットインスタンスは, オンデマンドインスタンスよりも最大で90%安くなることがあり, 大幅なコスト削減につながります。
事例2: ECサイトのプロモーション時の最適化
ECサイトが年に数回行う大規模なセールイベントでは、一時的にアクセスが急増します。この時、事前にリソースを過剰に確保すると、無駄な費用が発生します。
戦略:
- 通常時: 安定したアクセスを支えるためにリザーブドインスタンスを利用します。
- セール期間中: 予測されるトラフィックの増加分を、オートスケーリング機能とオンデマンドインスタンスを組み合わせて対応します。これにより、必要な時だけ自動的にリソースが追加され、セール終了後には自動でリソースが解放されるため、無駄なコストが発生しません。
これらの戦略は、以下のような業種にも応用可能です。
- 期間限定でアクセスが集中するキャンペーンLP
- 毎月処理量が変動する定期バッチ処理システム
- 複数環境(本番/検証)を持つSaaS開発チーム
応用編:知っておきたい料金体系のポイント
さらに深い知識として、料金体系の応用的なポイントをいくつかご紹介します。
見落としがちなコスト要因
料金計算ツールでは見積もれても、現実には見落としがちなコスト要因も存在します。
- データ転送コスト(特にマルチリージョン構成時):
リージョンをまたぐデータ転送は高額になりがちです。
システム構成を見直し、できるだけ同一リージョン内で完結させる工夫が必要です。 - ログ保存や監査用の
CloudTrail
・CloudWatch
コスト:
これらのコストは, ログレベルを精査することで大幅に削減できる場合があります。
業務要件に応じて, 必要最小限の保持期間やログ種別を設定しましょう。 - サーバーレス系(
Lambda
やFunctions
)の無料枠超過分:
無料枠を超過すると, 実行回数や実行時間に応じて料金が発生します。
利用状況をモニタリングし, 無料枠の範囲内で収まるように調整することが重要です。 - ストレージの「読み出し回数課金」や「APIコール課金」:
ストレージは保存容量だけでなく、アクセス頻度にも料金が発生します。
アクセス頻度の低いデータは、より安価なアーカイブストレージに移行することを検討しましょう。
これらを含めて初めて,“本当のTCO(総所有コスト)”が見えてきます。
継続利用割引(Google Cloud)
Google Cloud独自の仕組みとして、継続して利用するだけで割引が適用される継続利用割引があります。これは、インスタンスを長時間稼働させるほど自動的に割引率が高くなる, 非常に魅力的なシステムです。
ユニバーサル・クレジット(OCI)
OCIのユニバーサル・クレジットは、事前に一定額を支払うことで、OCIのすべてのサービスに適用できるクレジットを得る仕組みです。これにより、個別のサービスごとに契約を結ぶ必要がなく、予算管理がシンプルになります。
まとめ:航海は続く、羅針盤はあなた自身の中に
本記事では、主要なクラウドサービス4社の料金計算ツールを使った実践的な方法と、具体的なコスト最適化の事例をご紹介しました。
クラウドの料金体系は、一見複雑に見えるかもしれません。しかし、今回ご紹介したツールや戦略を応用することで、まるで熟練の航海士が風や波を読み解くように、コストの波を乗りこなし、事業の成長という名の目的地にたどり着くことができるはずです。
もし、この記事を読んでもまだ迷ってしまうことがあれば、それは当然のことです。
お気軽にご相談ください。
シリーズ記事:
The Cloud Titans #5-4
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