フリーランス新法 SES 業務委託契約
現場PMのための指示出しと環境整備の実務
はじめに
システム開発における外部パートナーとの協業は、単なるリソース確保ではなく、法規制を遵守した「戦略的な連携」へと進化しました。2024年に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者法)」は、2026年の今、現場のスタンダードとなっています。
本記事では、SES(準委任)や請負契約において、フリーランスと円滑に業務を遂行するための環境整備と、偽装請負を避けるための具体的な運用ルールを解説します。
本記事は、フリーランス新法および偽装請負防止に関する一般的な実務指針を整理したものであり、個別案件に対する法的助言を行うものではありません。最終的な契約判断については、顧問弁護士等の専門家への確認を推奨します。
1. 契約形態による指揮命令の境界線
IT開発現場では、請負と準委任(SES)が混在することが一般的です。新法下では、実態としての「指揮命令」の有無が厳しく問われます。
1. 請負契約(成果物完成を目的とする場合)
請負契約の目的は「成果物の完成」です。発注者が作業員に直接指示を出すことは「偽装請負」とみなされるため厳禁です。
- 指示の出し方: * 修正依頼は、必ず受託側の責任者を通じて、合意した検収基準に基づいて行います。
- プロセスではなく、アウトプットの不備を指摘する形をとります。
2. 準委任契約(SES・技術提供を目的とする場合)
SESで一般的な準委任契約においても、指揮命令権は受託側の企業にあります。
- 運用のポイント: * 業務遂行上の「調整・依頼」は可能ですが、人事管理や勤務態様の直接指定(遅刻欠勤の承認など)は行えません。
- 「何時にどこで作業するか」を個別に指定せず、業務の目的と範囲を提示し、受託側のリーダーが管理する形を徹底します。
2. WBSによる「業務範囲」の可視化と管理責任の明確化
JUICY LTD.としての運用指針では、契約の実態をクリーンに保つためにプロジェクト開始時に運営ルールを定義することが不可欠です。
WBS(作業分解構造)の作成義務
プロジェクト開始時には必ずWBSを作成し、作業単位を可視化します。原則として受託側の責任者(リーダー)が作成し、発注側は「要求事項」を提示するフローを徹底します。これにより、契約外の作業が発生した際、追加契約の協議がスムーズになります。
プロジェクト管理とタスク振り分け
「誰が誰を管理するか」を明確にすることは、指揮命令系統を整理することと同義です。
- 管理責任:
エンジニアの進捗・品質・労務管理は、すべて受託側のリーダーが行います。 - タスクの配分:
発注側PMは「目標(何をいつまでに)」をリーダーに伝えます。
個々のエンジニアへの具体的なタスク割り振りは、受託側リーダーの裁量に委ねます。
3. 独り請負(一人請負)におけるリスク管理
エンジニアが一人で参画する場合、発注側のPMが直接指示を出してしまいがちですが、これは「労働者性(雇用)」を認定される最大のリスク(偽装請負)です。
- 自律性の担保:
JUICY LTD.としての運用指針では、「毎日17時に報告し指示を仰ぐ」運用はNGです。
WBSに基づき、エンジニア自身の判断で解決策を提示してもらう成果ベースの管理を徹底します。 - 場所・時間の拘束:
JUICY LTD.としての運用指針では、「9時から18時まで着席」の強制は認められません。
セキュリティ等の合理的な理由がある場合のみ、契約時に合意の上で調整します。 - 指示のレイヤー:
JUICY LTD.としての運用指針では、「変数を書き換えて」ではなく「バリデーション機能を設計書通りに実装して」という高いレイヤーで依頼します。
4. 契約更新と「30日前告知」のルール
フリーランス新法では、6ヶ月以上の継続契約において、契約を終了(または更新しない)させる場合、30日前までの予告が義務付けられています。
【実務用】契約更新・終了に関する通知フォーマット
更新の有無を問わず、記録が残る形(電子メール等)で以下のように通知します。
件名: 【重要】業務委託契約の更新に関するお知らせ
本文:
〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社〇〇の〇〇です。
現在締結しております「〇〇システム開発業務」に関する業務委託契約(契約期間:2025年〇月〇日〜2026年〇月〇日)につきまして、契約条項およびフリーランス新法第16条に基づき、以下の通りご案内申し上げます。
- 更新の有無:更新する(または、期間満了につき終了とする)
- 次回契約期間:2026年〇月〇日〜2026年〇月〇日
- 業務内容の変更点:なし(または、WBS項目の追加など)
本通知は法的な確認を目的としております。更新をご希望いただける場合は、〇月〇日までにご返信をお願いいたします。
5. PM向け:契約実態セルフ診断票(10項目)
現場の状況が「偽装請負」や「新法違反」になっていないかチェックしてください。
※3つ以上チェックが外れる場合は、運用の見直しが必要です。
- [〇/×] WBSは受託側のリーダー(または本人)が作成しているか
- [〇/×] 毎日の細かな作業手順までPMが直接指示していないか
- [〇/×] 欠勤や遅刻の承認(勤怠管理)をPMが行っていないか
- [〇/×] 契約外の「ついで作業」を無償で依頼していないか
- [〇/×] 報酬の支払期日は納品・役務提供から60日以内か
- [〇/×] 契約終了・非更新の連絡を30日前までに行うフローがあるか
- [〇/×] ハラスメント相談窓口を外部パートナーに周知しているか
- [〇/×] 独り請負の場合、エンジニアに作業プロセスの裁量があるか
- [〇/×] 育児・介護等の配慮申し出に対して検討する体制があるか
- [〇/×] Google Cloud等の利用権限設定が社員と区別されているか
6. 現場PM必見!指示出しNGワードと言い換え例
| カテゴリ | やりがちなNGワード | 2026年基準の改善例 |
| 場所・時間 | 「明日から毎日9時に出社して」 | 「明日の定例は9時です。参加をお願いします」 |
| プロセス | 「私の指示通りにコードを書いて」 | 「品質担保のため、進め方の再検討を依頼します」 |
| 範囲外業務 | 「ついでにこのバグも直しておいて」 | 「追加依頼として、別途協議をしましょう」 |
7. 2026年版:フリーランス新法・SES契約に関するFAQ
現場でよくある疑問に対し、新法および偽装請負防止の観点から回答します。
A1: 原則、受託側の責任者を通じて依頼してください。直接の場所・時間の指定は「指揮命令」とみなされ、偽装請負のリスクが高まります。
A2: いいえ。継続期間が「6ヶ月以上」になる場合が対象です。ただし、更新を重ねて合計6ヶ月を超える見込みがある場合は、早期の通知を推奨します。※契約更新を前提とした反復継続契約の場合、通算期間で6ヶ月を超えるかどうかが判断基準となる点に留意してください。
A3: 契約締結後の不当な減額は新法で禁止されています。検収基準を事前に明確にし、基準に満たない場合の「やり直し依頼」として対応するのが正当なフローです。
A4: 新法には育児・介護との両立配慮義務があります。PMが直接許可を出すのではなく、受託側のリーダーに「弊社としては中抜けを許容する体制がある」旨を伝え、調整を依頼してください。
A5: 「情報共有」ならOKですが、「具体的作業の強制」ならNGです。指示はリーダーを含めたチャンネルで行うか、リーダーを介する運用を徹底してください。
A6: はい。元請けが特定受託事業者(フリーランス)へ再委託する場合、元請けが支払いを受けてから30日以内、かつ発注から60日以内に支払う義務があります。
A7: 雛形を渡すのは問題ありませんが、最終的な工数見積もりやタスク分解は受託側に行わせてください。「発注側が立てた計画に強制的に従わせる」形は避けるべきです。
A8: はい。新法では発注側に対してもハラスメント防止等の体制整備を求めています。自社の方針を周知し、共通の認識を持つことは非常に有効です。
A9: 感情的な「指導(叱責)」は避け、契約上の「債務不履行」や「品質不足」として、改善を求める協議を行ってください。
A10: セキュリティ上、および「実態の区別」のため、必要最小限の権限(最小権限の原則)を付与し、社員アカウントとは明確に識別できるように管理してください。
まとめ:コンプライアンスを競争力に変える
2026年のIT開発において、透明性の高い契約と適切な管理体制は、単なる守りの対策ではありません。
パートナーを尊重し、責任所在を明確にする姿勢こそが、優秀な技術者から「選ばれる会社」になるための最強の武器となります。
本記事は、フリーランス新法および偽装請負防止に関する一般的な実務指針を整理したものであり、個別案件に対する法的助言を行うものではありません。
最終的な契約判断については、顧問弁護士等の専門家への確認を推奨します。
フリーランス新法対応のSES・業務委託契約ガイド



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